【ドイツの歴史】カール大帝と無欲な司教 | 初代ケルン大司教ヒルデボルト

ケルン

ケルンは大聖堂だけが見どころだと思っている人が多いが、大聖堂以外にもケルンには教会が多い。とりわけ規模の大きなロマネスク様式の教会が12ケ所もある。聖ジェレオン教会はそのうちのひとつだ。ケルン大聖堂から西に向かって徒歩15分の距離にある。この教会にはカール大帝とケルン大司教に纏わる次のような伝説が伝わっている。

ケルンのリコルフス司教(Rikolphus)が亡くなったとき、後継者の選択をめぐって聖職者間で大きな論争が起こった。狩りから戻ったカール大帝はその知らせを聞くや否やすぐに馬に跨り、一晩中馬を走らせてケルンへと向かった。カールはケルンの近くまでやってきたところで、小さな教会でミサの鐘が鳴っているのを耳にしたので、ケルン市に入る前にミサに立ち寄ることにした。カールは馬から降りると手綱を木に結びつけ、教会へと入ってミサを聞いた。カールはミサを行った司祭に感銘を受けた。ミサが終わるとカールは祭壇に近づき銀貨を手渡した。その身なりからカールのことを猟師だと思った司祭は、カールの与えた銀貨を手に取り、こう言った。

「兄弟よ。この銀貨はお返しします。このような高価なお布施をすることはありません。」カールは答えた。「司教よ。どうかこの銀貨をお納めください。ぜひとも受け取っていただきたいのです。」司祭は言った。「あなたが猟師であることは見ればわかります。私のミサル(ミサ典書)は古くなり、表紙を皮で装丁し直す必要があるので、次にあなたが狩った鹿の皮を送ってくださいませんか。そうすればミサルをうまく装丁することができます。しかし銀貨はどうぞおしまいください。」

その言葉を聞くと、カールは今までミサを聞いていた人々に司祭の人となりを訪ねた。質問された人びとは司祭が敬虔で無欲で正直者であると答えた。

教会を出るとカールはケルンへと向かった。カールは猟師の服装をしていたが、皇帝を知る聖職者たちはすぐにカールであることが分かった。聖職者たちの議論の輪に加わったが、誰を新しい司教として選ぶかという点については合意が得られないままだった。

するとカールは次のように言った。「次の司祭を決められないのなら私が選ぼう。」

カールは銀貨の代わりに鹿の皮を求めた司祭をケルンに呼び、新たな司祭に任命した。新司教の名はヒルデボルトと言った。784年にケルン司教となり、カールの親しい友人であり続けたのであった。

この伝説に出てくるヒルデボルトは実在の人物だ。カール大帝の友人であり、787年、カールの要請によりケルン司教に任命されている。カールの宮廷の中でも最も重要な皇帝顧問のひとりであったという。カール大帝の宮廷で顧問としての義務を果たせるよう、カール自身の要請により、教皇ハドリアヌス1世は、ヒルデボルドにケルンでの居住義務を免除までしている。

それだけではない。794年、カールの要望に応じる形で、教皇はケルン教区を大司教区へと昇格させ、ヒルデボルド司教を大司教へと昇格させた。ブレーメン、ユトレヒト、リエージュ、ミンデン、ミュンスター、オスナブリュックの司教区はケルン大司教区に従属していた。その後、大司教となったヒルデボルトはケルン大聖堂の拡張を命じている。工事はヒルデボルトの死後に始まったとされるが、この頃にヒルデボルトが拡張を命じた教会は後に《ヒルデボルト大聖堂》と呼ばれ、現在のケルン大聖堂が建設される前に存在していた大聖堂だ。

811年には、ヒルデボルトはカール大帝の遺言に最初の証人として署名していることからも、いかにカールに信頼されていたかが窺い知れる。しかし、どうしてヒルデボルトがここまでカールの信頼を勝ち得たのかは伝わっていない。

皇帝の死後もヒルデボルトはその地位を維持し、 816年には教皇ステファヌス5世に従い、カールの息子ルートヴィヒ1世の戴冠式を執り行っている。818年9月3日、ヒルデボルトはケルンで亡くなり、聖ジェレオン教会に埋葬された。今日、聖ジェレオン教会の近くの広場はカール大帝の治世に貢献した大司教の名に因んで《ヒルデボルト広場》と名付けられている。

参考:

thema.erzbistum-koeln.de, “Hildebold -Oberhirte mit Macht in Kirche und Welt”, https://thema.erzbistum-koeln.de/grosse-geschichte/bischoefe/hildebold/

sagen.at, “Bischof Hildebold von Köln”, https://www.sagen.at/texte/sagen/deutschland/nordrhein_westfalen/Bischof_Hildebold.html

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