ノイスの魔女

ノイス

【へスター・ヨナス】16世紀後半、ノイスにへスター・ヨナスという女性がいた。彼女は助産師であり、また漢方薬も扱っていた。製粉業者の男性と結婚し、幸せに暮らしていた。へスターが64歳になったころ、魔女の疑いを掛けられ、起訴されたのだった。邪悪な人間と付き合って、他の人間や動物に害を及ぼしたという罪状を掛けられ、悪魔に取りつかれていると判断された。こういった噂が町に広まるにつれ、市当局も対応を余儀なくされた。

へスターは逮捕、起訴され、拷問を受けたのだった。鉄の釘が打ちつけてある拷問用の椅子に合計10時間も裸で座らされ、自白を強要されたのだった。凄惨な拷問の末、へスターは自らの「罪」を自白したのだった。裁判所は、死刑を宣告。1635年のクリスマスイブの日、へスターはケルンの死刑執行人によって剣で首を切断された。遺体は埋葬されることなく焼き払われ、灰は見せしめとして四方八方にばらまかれたという。へスターの夫はこの処刑にかかった費用を請求されている。

拷問に使われた椅子

へスターは医学に通じた女性であり、薬草や漢方薬で多くの人を助けた善意の人であった。彼女は治癒のため、時折マンドレークの根を使用したという。当時、マンドレークの根は治療用に使われたほか、「儀式」に使用される植物と認識されており、魔術の道具として有名であった。マンドレークを手に入れて使用するには、悪魔と契約を結ぶ必要があると伝えられることもあった。こういった伝承は、マンドレークの根が複雑な形状をしており、しばしば人間の形に見立てられたことにもよる。シェークスピアの『ロミオとジュリエット』を始め、数々の物語や伝承でマンドレークは不思議な植物として描かれている。

また、へスターは持病として癲癇(てんかん)をもっており、時折、痙攣をおこしたり、顔の特徴が変わったりしたことがあった。このような症状も、起訴された理由のひとつであったという。へスターが処刑された17世紀には、こういった特定の病気や障害を持つ人が、悪魔に取りつかれていると信じられることがあった。身体に障害のある姿は、神の像と肖(神は自身の「像」と「肖」に従って人を創造したとされる考え)ではなく、足を引きずる悪魔と連想されたのだった。

病気や障害と悪魔との関係性は、魔女裁判でもしばしば利用されたのだった。様々な理由でひとりで自立して生活できなかったり、当時の美の規範から逸脱したものは、容易に魔女のレッテルを張られることがあったという。へスターもそういった偏見の犠牲者であった。

魔女裁判の犠牲となった女性は大勢いるが、このへスター・ヨナスのケースは、詳細な裁判記録が市のアーカイブに残っているという点で非常に稀なケースである。17世紀のノイスの詩人、ピーター・マイヴァルト(Peter Maiwald)は、へスター・ヨナスの裁判記録から、彼女が平凡に暮らしていた頃から、拷問され処刑されるまでの出来事を詩にしている。

参考:

Westdeutsche Zeitung, “Stadtarchiv: Mit dem Belzebub gebuhlt”, 28. April 2011, https://www.wz.de/nrw/rhein-kreis-neuss/neuss/stadtarchiv-mit-dem-belzebub-gebuhlt_aid-30802659

Online Handbuch Inklusion-als-menschenrechte, “Hester Jonas (um 1570 – 1635)”, https://www.inklusion-als-menschenrecht.de/neuzeit/biografien/hester-jonas/

ピーター・マイヴァルト作の詩:”Ballade von der Hester Jonas”, https://www.inklusion-als-menschenrecht.de/neuzeit/materialien/zur-weiterarbeit-ballade-von-hester-jonas/ballade-hester-jonas/

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