ユーターボーク（Jüterbog）は、ブランデンブルク州にある小さな町だ。1007年、タギノ・フォン・マクデブルク大司教（Tagino von Magdeburg）の年代記者であるティートマル・フォン・メルゼブルク（Thietmar von Merseburg）は、城壁内の村の集落を初めて「ユーターボーク」と呼んだという記録があり、その成立の起源は11世紀まで遡る古い町だ。1478年には市は火災を経験したが、マクデブルク大司教の資金提供により再建されている。しかしその後、1637年と1639年の疫病とそれに伴う飢饉により、かなりの犠牲者が出た。住民は4,000人から約300人にまで減少したという。
この町は、ワイマール生まれの作家、ルートヴィッヒ・ベッヒシュタイン（Ludwig Bechstein）が1828年に著わした《ドイツ童話集》（Deutsches Märchenbuch）の中に収められているエピソードによって有名だ。
その昔、ブランデンブルクのユッターボークには、非常に狡猾で熟練した鍛冶屋がいた。神聖ローマ皇帝バルバロッサの武具を作る職人の親方として、彼は貫通できない鎧を作ったと言われる。非常に敬虔な男で、黒と白のコートを着ていた。ある晩、その日の非常に遅い時間に、聖なる顔をした男が彼のところにやって来て、泊まる場所を求めた。鍛冶屋はいつも友好的で誰にでも愛情を持って接したので、この見知らぬ男も歓待した。翌朝、この見知らぬ男が出発しようとしたとき、彼は鍛冶屋に心から感謝し、鍛冶屋に三つの願いをするよう言った。
そこで鍛冶屋は次の三つの願いを口にした。
最初の願いは、彼の家の椅子に関するものだった。誰かが座ると、鍛冶屋が命じるまでは、その人を決して離さないようにすること。
二番目の願いは、庭にあるリンゴの木について。誰かがその木に登ると、鍛冶屋が命じるまでは、降りられないようにすること。
そして、第三に、彼の石炭を入れる袋について。誰かがこの袋に入ると、鍛冶屋が命じるまでは、この袋から出てこれないようにすること。
見知らぬ男は、鍛冶屋の願いを聞き入れて去っていった。数年が経過し、年老いた鍛冶屋のもとにも死神が訪れた。鍛冶屋は、死神に対して、まず椅子に座ってくつろぐように提案した。一度椅子に座った死神は、立ち上がろうとしても、自分では立ち上がれず、鍛冶屋に騙されたことに気づいた。死神は、鍛冶屋にさらに10年の寿命を約束し、ようやく椅子から解放されたのだった。
10年が経過すると、再び死神が鍛冶屋のもとを訪れた。鍛冶屋は長旅でお腹のすいた死神に、庭のリンゴの木に上ってリンゴをとってくるように提案した。死神はその提案どおりにしたが、しばらくして木から降りることができないことに気づいた。鍛冶屋は重い鉄の棒で死神を激しく打ち付けた。しばらくして、鍛冶屋は死神を解放したが、死神は二度と鍛冶屋のもとに来る気はなかった。
今度は悪魔がやってきたが、鍛冶屋は家のドアを決して開けなかった。しかし、悪魔は諦めず、ドアのカギ穴から、部屋の中へと侵入した。しかし、そこは鍛冶屋が一枚上手で、鍵穴へあらかじめ石炭の袋を被せておいたのだった。まんまと悪魔が石炭の袋に入ったところで、鍛冶屋は袋を縛りあげ、悪魔はもう自力で脱出することはできなかった。鍛冶屋は自慢のハンマーで、腕が疲れ果てるまで悪魔の入った袋を叩きつづけ、悪魔に大いにお仕置きをした。
これは《ユッターボークの鍛冶屋》というお話で、ブランデンブルクに伝わる伝承だ。
話には様々なバリエーションがあり、別のバリエーションでは、鍛冶屋は守護霊に出会った後、幸せな生活を送ったが、長い人生に疲れ果て、天国で永遠の休息を求めたが、その願いは受け入れられることがなかった。鍛冶屋は守護霊にもっとも重要な願いを告げるのを忘れてしまった。今となっては、死神や悪魔でさえも鍛冶屋に近づかなかった。
そこで鍛冶屋はキフホイザーに眠るとされる皇帝フリードリヒ・バルバロッサのもとへと出向いた。伝説によれば、皇帝は山の上を飛んでいるカラスがいなくなった日に、再びその姿を現すという。鍛冶屋はそこで、いつの日か永遠の休息を得られることを期待して、その場でバルバロッサを待つことにした。
この物語は12世紀、宗教改革で重要な役割を果たしたユーターボークの町を舞台にしている。アルブレヒト1世が1157年にマークブランデンブルクを設立し、ドイツの領土を東へと拡大した頃に遡る。他の多くのバルバロッサ伝説と同じように、最後にはフリードリッヒ１世が言及されている。
19世紀にこの物語が紹介されたとき、死神や悪魔を手玉にとる、その狡猾な主人公は当時のドイツのおとぎ話で最も人気のある人物像となったという。
参考：
sagen.at, “DER SCHMIED ZU JÜTERBOG”, http://www.sagen.at/texte/sagen/deutschland/brandenburg/schmiedjueterborg.html
maerchenatlas.de, “Der Schmied von Jüterbogk”, http://www.maerchenatlas.de/deutsche-maerchen/ludwig-bechstein/der-schmied-von-jueterbogk/
zeno.org, “Der Schmied von Jüterbogk”, http://www.zeno.org/Literatur/M/Bechstein,+Ludwig/M%C3%A4rchen/Deutsches+M%C3%A4rchenbuch/Der+Schmied+von+J%C3%BCterbogk
コメント